湘南ダディは読みました。
森雅裕さんは商業出版に対してどこか超然とした姿勢を貫いておられる現代の出版界では珍しい作家です。本作も2000年の初刷でやや古いのですが単行本で入手できます。
家康四天王の一人といわれた本多忠勝の娘、稲が謀略知略で知られる戦国武将、真田昌幸の嫡子信幸に嫁入りします。嫁入りに際し、忠勝の愛槍、とんぼ切りを嫁入り調度として所望します。ところがこの槍が二代目千子村正の直弟子で時に師匠の代わりに鍛えた刀に村正の銘を穿つこともあった伊勢の刀工正真の作であったことが問題になります。世に言う妖刀村正です。家康の祖父、父が村正の銘のある刀で殺害されただけでなく、家康の長子清康の自害の際の介錯に使われたのも村正であったため、村正銘の刀を所持していれば家康に対して意趣ありと見なされる忌み刀になっていました。
この槍が稲の嫁入りの直前に盗まれます。それを知ってか、大阪への出発を延ばした家康は忠勝にその槍を見たいと言い出します。見せられなければ村正を隠し持っていることになるでしょうし、見せて村正とわかればそれこそ一大事です。これは台頭してきた文吏派の本多正信が武闘派の雄、本多忠勝を追い落とそうとした策略だったのです。この場は稲の機転で事なきをえるのですが、その後も村正は、大阪方についた昌幸や幸村に散々苦汁をのまされた徳川秀忠やその忠臣一派から真田追い落としの材料にされ続けます。そのたびに男勝りの稲姫(嫁いでは小松殿)の小気味よい活躍で大事には至らないですみます。ただ作者の描きたかったのは村正妖刀伝説でなく、その折々に登場する武将達の男振りの良さであったのでしょう。
刀剣に関する作者の深い含蓄に裏打ちされた読み応えのある作品です。家康体制における幕閣の覇権争いを下敷きにしながら、史実をなぞるだけの退屈な歴史小説ではなく戦国に生きた武将や女達のまことに魅力的な生き様が見事な人間ドラマに仕上がっています。
おもしろい!!
物語は、天下の趨勢がほぼ徳川に決まりかけていたころからはじまり、本多忠勝の娘の嫁ぎ先の真田家のこと、関ケ原、大阪の陣を挟み、改易・取り潰しにかかろうとする幕府と、目の敵にされながら、なんとか生きのびようとする真田家との駆け引き、それに関わる本多忠勝と息子たちが、虚実を入り混ぜて語られていきます。その穂先にとまったトンボがスッと二つに切れたことから名付けられた、名槍「とんぼ切り」。家康に過ぎたる者と激賞された、徳川四天王の一人、本多忠勝の愛用の得物だったことから、本多忠勝の武将としての一代記かと思い読み始めたのですが、違っていました。いい意味で裏切られました、とてもおもしろい小説です。
忠勝ファン待望の一冊!!
ほとんどの方が本多平八郎忠勝と聞いても誰?と、 言う返事が返ってきそうですが、徳川家康はご存知 ですよね。その家康公の天下統一のために全身全霊 を打ち込んだ「本多中務大輔平八郎忠勝」は、“徳 川四天王”“徳川十六神将”とうたわれた猛将なの です。武田軍の落首に「家康に過ぎたるものが二つ あり 唐の頭に 本多平八」とありますが、その生涯 57度の合戦において切り傷一つ負わなかった槍術 の達人でした。ご愛用の名槍の号は「とんぽ切り」 と言われ、とんぼが槍先にとまったとたんにヒラリ と二つに切れてしまうほど切れ味が鋭かったそうで す。この名槍「とんぼ切り」が一つのキーワードに なって繰り広げられるこの時代小説は、秋の夜長を 幻想的に過ごさせてくれます。本多忠勝公ファンは 無論の事、歴史好きな方には特にお勧めしたい一冊 です。読み終わって、白檀のお香を焚いている貴方 の姿が見えるようです。
集英社
鐵のある風景―日本刀をいつくしむ男たち 北斎あやし絵帖 殿といっしょ1 (MFコミックス) 殿といっしょ 2 (MFコミックス) 真田信之―弟・幸村をしのぐ器量を備えた男 (PHP文庫)
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